これまで廃棄物処理法に基づく生活環境影響調査について、法改正後から今日までに159件行っています。主に私の事務所のある東北地方や関東方面が中心ですが、お付き合いのある事業者さんやコンサルタント会社、許認可申請等を行う行政書士事務所の方々からのご依頼です。
生活環境影響調査は、事業者が自主的に行い、役所に提出するだけではもちろんありませんので、当然のことながら廃棄物処理施設を設置する場所を管轄する役所の審査が必須となります。
調査のご相談があり、事業計画を伺い、どのような調査が必要か私の方で検討し進めていきます。
この時に、調査を全て終了させ、報告書案が出来上がってから役所に提出し、調査内容の不備があり、調査をやり直すようなことになってしまっては事業スケジュールに大きな影響を及ぼすことになります。そのため、調査開始時点で、調査計画について、役所と協議し、概ね了解をもらい進めていくのがベストですし、私の場合は全てそのようにやってきました。
これについては、全国どこの役所であっても同様で、調査開始時点から役所の担当者とコミュニケーションを図っておくことが、後々大変重要になってきます。
生活環境影響調査は、「生活環境影響調査指針」で現況把握・予測方法、影響の分析方法等について、アバウトなところも多いですが、全般的な記載があります。
ところが、このアバウトなところについて、役所の担当者によって、様々な受け取り方、取扱いが多く見られ、一律な考え方で対応でき難い場合がかなり多いのが現状です。
具体的に話しましょう。
指針では、「生活環境影響調査の基本的な考え方」として、調査対象地域の設定は、「施設の種類及び規模、立地場所の気象及び水象等の自然的条件並びに人家の状況などの社会的条件を踏まえて、調査事項が生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域として申請者が設定する」とされており、大気、騒音、振動、悪臭などについても、「交通量が相当程度変化する主要搬入道路沿道の周辺の人家等が存在する地域」や「対象施設から発生する騒音による影響については、騒音の大きさが相当程度変化する地域であって、人家等が存在する地域とする」などと規定されています。
要は、この指針の主旨は、あくまで生活環境影響調査であり、公害問題がメインであるため、「人」への何らかの影響がありませんか、懸念されるような場所、地域であれば必要な調査を行ってください、ということだと私は考えます。
ところが、指針ではこのように文章だけの記載であるため、どの程度だったら人家が存在する地域と判断するのか、相当程度変化する交通量とはどの程度かなど、判然としません。そのため、役所の担当者の考え、経験、思い付き、こだわり等々、いろいろな指導がありえることとなってしまいます。
一昨年から昨年、関西地方で行った調査がそのような感じでした。
事業実施区域周辺は、都市計画法に基づく用途地域が準工業地域に位置し、大きな下水処理場が隣接しており、関連した施設群も周辺に点在していました。加えて新幹線の高架下に位置し、最寄りの民家までは、1級河川を隔て約300m近く離れて存在するような地域でした。
これまでも「みなし施設」として長年稼働してきた施設であり、最寄りの自治会への説明も丁寧に行われている事業所でした。ところが、役所はこれまではあくまで「みなし施設」であったから稼働できたが、これから稼働するためにはまず生活環境影響調査をフルで行ってほしいという指導でした。
周辺の土地利用、交通量の変化、人家の存在は前述した通りであり、その旨丁寧に何度も説明しましたが、結局は同等の施設への入替えにも関わらず概ねフルスペックの調査を実施することとなりました。
「みなし施設」については、上記事例は関西方面でしたが、同じような案件が東北でもありました。
関西の経験がありましたので、今度も大変かと思っていると、まるで異なり、人家等の存在状況、土地利用等を地域概況で示し、最寄りの観測地点等の既存のデータを使えるものは使い、不足する騒音振動の測定を実施する程度で工期も費用も全く違い、わずか半年足らずで終了しました。
現在は、このような「みなし施設」(平成9年6月の法改正で生活環境影響調査が義務付けられることとなりましたが、それ以前から稼働していた施設については、みなし施設として許可され稼働)については、同じ施設への更新であれば、令和3年4月5日付の環境省の課長通知により、「同一の廃棄物処理施設に更新する場合の手続」は、「設置許可等と同一に廃棄物処理施設を設置しようとする場合は、第一のとおり当初の設置許可等はなお有効であることから、改めて設置許可等を受ける必要はない」とされ、使用前検査で済むこととなりました。
ただ、現状は、あくまで法改正ではなく、通知文であるため、各自治体の判断、裁量の部分が大いに残されている状況です。
そもそも、環境への意識が低く、規制値遵守もままならず、苦情も多いような施設は、それほど多くなく、私がこれまでお付き合いしてきている事業者さんはほとんど作業服が埃まみれ、泥だらけになりながらも懸命に施設のメンテナンスを行ったり、指導があればコストをかけ、環境対策を施すような方々がほとんどでした。
通知文の背景は「施設を更新する際の許可の申請に係る事務処理について、環境負荷が低減する場合の手続の簡略化を検討するとともに、更新許可手続が事業者の円滑な事業の促進を阻害することのないように必要な措置を検討していくべきである」(中央環境審議会)ということです。
環境対策はもはや当たり前、先進的な技術の導入も積極的に行う、周辺環境への影響を考慮した立地計画、これらを考えれば、むやみに事業者に過大なコストと時間を要求する姿勢は時代に合わないと言わざるを得ません。