粉じんというと、「ほこり」や「ちり」、「排気ガス」等を想像されると思います。
粉じんが健康への影響を考えるようになったのは、鉱山などの作業員が作業中に発生する粉じんを吸入し、肺にじん肺と呼ばれる病気を発症したことが初めです。
今では日本に鉱山はほとんどありませんので、現在は物の燃焼などによって直接排出されるものや硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)等のガス状の大気汚染物質が、大気中で化学反応し粒子化したものがあります。発生源は、ボイラー、焼却炉等のばい煙発生施設や自動車、船舶、航空機等から発生する人為的な起源のもの、また、土壌、海洋、火山等の自然起源のものがあります。
粉じんと言っても、環境に漂う粉じんの粒子が空気と一緒に吸引される時は、その粒径によって人体の異なる場所に沈着します。
空気中に漂う粉じんは、その粒径に応じて沈降速度があり、10μm(μmはmmの1/1000)以上の粒子は、その発生源の近くに降下します。これを踏まえ、大気中の粉じんを「0.1~10μm」と「10μm以上」の2つに区分し、前者を「浮遊粒子状物質」、後者を「降下ばいじん」として扱うことが一般的です。
降下ばいじんは、農作物や地上等にある様々な物の上に降下した場合、特にそれらの粒子に有害ガス、酸性物質等が吸着しているような時は大きな被害につながることがあります。 一方、人体に吸入され粒径により様々な場所に沈着した粉じんは、呼吸器障害等を引き起こします。
次にこれらの粉じんの測定ですが、10μm以上の降下ばいじんは、ダストジャーと呼ばれる容器を地上等に設置し、1ヶ月間など一定期間放置し、ダストジャー内部に降下堆積、付着した粉じんの質量を計測します。
また、0.1~10μmの粉じんは、吸引ポンプやサンプラーを用いて、対象とする大気を吸引し、フィルターによって粉じんをろ過捕集し、捕集前後の質量の差から粉じん量を求め、吸引量で割り算し、質量濃度を求めます。
濃度が比較的高い、事業場の敷地境界等の場合には、ロウボリウムエアサンプラーを用い、環境が比較的清浄で濃度が低い場合は一昼夜24時間の採取が基準であり、吸引流量が500ℓ/min以上のハイボリウムエアサンプラーを用います。環境アセスメントにおいて山間地等で 採取する場合がこのケースです。
測定法には、このような重量濃度測定法以外に相対濃度測定法というものがあります。
環境基準で定められている1時間値の測定は重量濃度測定法では難しいため、粒子の散乱光の量が粉じん量に比例するという性質を利用し、まずはデジタル粉じん計等でその散乱光の量を測定し、別に重量濃度測定法で測定した値と比較し、質量濃度換算係数を求め粉じん濃度を算出する方法です。
大気環境基準のうちの1つの項目である「浮遊粒子状物質」は粒径が10μm以下の粒子を対象としているのに対して、屋内の粉じんが発生するような事業場での作業環境測定基準は、より呼吸器内部に沈着する7.07μm以下の粒子を対象としています。
また、近年では、大気中に浮遊している2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)が、非常に小さいことから、肺の奥深くまで入りやすいため、呼吸器系への影響に加え、循環器系への影響も問題視されており、環境基準が別に定められています。
「粉じん」にもいろいろあります。
環境基準を目標値として測定する場合は、浮遊粒子状物質やPM2.5を測定し、作業環境上の粉じんを対象とする場合は7.07μm以下の粉じん濃度を測定する必要があります。
また、最後になりますが、生活環境影響調査を行う場合、役所からの指導で粉じん測定を行う場合がありますが、評価基準が今一つ曖昧です。環境基準として存在するものは、前述の浮遊粒子状物質とPM2.5であり、それぞれ粒径があり、項目の持つ意味が異なります。降下ばいじんも同様です。一口に「調査では粉じんもお願いしますよ」などと言われても、どの粉じんを対象とするかによって、測定方法から異なるわけです。
このような時にいつも、指導する役所は技術的なそれらのことを理解しているのか、甚だ疑問です。また、粒径が重要なファクターであるため、それらに応じた分粒装置の装着やサンプリング時流量の調整が欠かせませんが、調査機関によっては、単にポンプで吸引し、ろ過捕集している場合も多く存在します。
調査結果は、一度、報告書となって公表されてしまえば、独り歩きします。
数ある粉じんの中で、どうしてその項目を選択したか、またどのようにしてサンプリングしたか、その環境中の粉じんの評価をどのような考えで行うか、これらの点が最も重要なポイントです。
生活環境影響調査や環境アセスメントを行っていると様々な場面に遭遇しますが、森と水とでは、これまでの経験を活かし、間違いのない丁寧な調査をお約束いたします。
森と水と 鎌田
moritomizuto@air.ocn.ne.jp